赤という色


私には、その季節が訪れる度に思い出す事や、何かある度に思い出そうとする事が幾つかある。
それは忘れかけた大切なものを思い出す為の、自発的な戒めであるのかもしれない。



「先生、赤という色は、どんな色なのですか」
友人が初出勤の日、生徒から受けた質問である。

メジャーバンドのバックドラマーを勤めていた彼は、30歳間近にして美大に通い、何を思ったか美術教師になる道を選んだ。
そして最初の赴任先は、盲学校だった。

目が見えない生徒達の前に置かれた、一輪の赤いバラ。
手探りで形を図り、驚く程正確にバラを描いた彼等から受けた質問。
「赤という色・・・」

その色を見た事のある者になら、どんな表現を使ってでも説明する事ができるだろう。
しかし、生まれてこの方、何も見た事がない者に、何と説明できるであろうか。

かつての大作曲家、ベートーヴェンは聴覚を失った。
それでも尚、新たな曲を創れたのは、その身体に染み付いた音があったからである。

しかし染み付いた視覚のない彼等に、何と説明をすれば良いのだろう。

たった1日にして、自信を喪失し、電話越しに泣きじゃくっていた彼を、私は今でも時々思い出す。


赤という色。
情熱的で、過激的で、暖かい色。
私達の身体にほとばしる、赤と言う色の血。

あの日流した涙の先に、彼はミッシングピースを見つけたのだと言う。
彼等が気付かせてくれたのだと。

そして彼は今でも、同じ道の上を歩いている。



忘れかけた大切なもの。
それは未来への希望だったり、自分流の言葉であったり、形は様々だ。
日々の生活の中で、つい忘れそうになってしまう、私にとって大切なもの。

不器用でも構わない。
間違えたって構わない。

ただ探す事を止めないように。
答え等出なくても、模索し続けること。

諦めそうになった時、私はいつも彼の言葉を思い出す。

自分に足りない何かを補ってくれるのは
知らない事に気付いた自分なのかもしれないね

俺はきっとずっと探し続けるよ
赤という色はどんな色なのか

2003.7.12

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