My Fairy Lady Part3

10月2日。実家へ・・・

小さい身体で、ものすごいジャンプ力。ドライブが大好きで、滅多に鳴かない彼女が、辺りに響き渡るような声で吠えるのは、車に乗る時と、海に飛び込む時だけである。
身体を低く丸め、クルクルと周りながら尻尾を振り回し、『ワン』とか『キャン』を連呼する。名付けて『レディダンス』

思えば、もう何週間も『レディダンス』を見ていないような気がして、私はヨタヨタと付いて来る彼女を、泣きそうになりながら、眺めていた。
ゆっくりと抱きかかえ、車に乗せると、フラフラと歩きながら助手席へ陣取った彼女は、まるで別れを告げるかの様に窓の外を見つめていた。

彼女の演技力は大したものだと、たまに感心することがある。
こちらが病人扱いすると、途端に病犬に成り済ましてしまう節がある。
ちょこまかと動き回って煩いからと、手に包帯を巻いて、「痛い? 大丈夫?」等と声をかけようものなら、もう歩けないゎ・・・と、グッタリする。彼女の白熱の演技は、年間何千万、と稼ぐ女優犬も真っ青であろう。

そんな彼女を見越して、私の夫や母は、おまえのその病人扱いで、彼女は病人に成り済ましているのだ。と断言する。
しかし、私がどれほど元気張ろうとも、彼女の病人度は増すばかりであった。

当日は、実家へ寄る事なく、母を途中で拾い、そのまま病院へ向かう事にしていた。
高速のインターで、レディにはゲージに入ってもらい、母を感じる事なく病院へ連れて行きたかった。麻酔から覚めた時、大好きなおばあちゃんがそこにいる。そんなシチュエーションを思い描いていたのに、母ったら・・・「レディちゃぁ〜ん」と声をかけてしまい、私の思いやりは台なし。

ぷりぷり怒りながらも、いざ病院へ。
「デカイ病院〜」それが感想。
大きな待ち合い室に、母、レディ、私の順番で座り、名前が呼ばれるのを待ちわびていた。
末期癌患者の手術が長引いているらしく、その長い待ち時間の間に、私の緊張はまたもや頂点に達していた。

「では、レディちゃ〜ん」
と呼ばれたのは、実に予定時間から2時間も経過していたのだから、ぶっ倒れそうだった私の心中、お分かりいただけるだろうか。
レディを抱えて診察室に入る私の姿は、いかにも怪し気な雰囲気をかもし出していたようだ。

幾つかの検査をし、結果を聞く段になり、私は母を呼んだ。こういう時の為に、一緒に来てもらっていたのだが、先程行われた末期癌患者の呻き声が、母をも硬直させ、私達は銅像のように固まっていた。
結果は・・・他への転移は今の所見つからない。しかし、ちょうどリンパの上にあるから念のため取りましょう、ということになり、乳腺腫瘍摘出手術は決行されたのである。

つづく

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