Phot : Snow by Nao

Footprint in Snow

今から七年前、私は母と二人で旅行をした。
結婚前の母娘旅行だ。

岐阜の高山へ行き、温泉に浸かり、美味しいものをたらふく食べる
女二人、始めての旅行は、とても贅沢なものだった。

季節は秋。
きっと紅葉が綺麗ね・・・
母の一言で温泉行きが決まったのだ。

しかしハッキリ言って、寒かった。
しかも紅葉どころか
今にも雪が降るんじゃないか、と言う程の激寒日和だった。
私達は何日分かの衣装を重ねて着込み
震えながら部屋に閉じ篭っていた。

「良いお天気続きで、良かったですね〜、今年は例年になく寒いですけど・・・」
と、仲居さん。
着物の裾がヒラリと開き、そこに見えるは、羊のももひき。

明日はロープウェイに乗りましょう。
母の為の旅行だったので、私は渋々だが了承した。

夜には三合程のお酒を空け、気分も良好床に付いた。

翌朝、目覚めてみると一面白銀の世界が視界に広がり
私達は歓声をあげた。

私の生まれ育った街に、雪は積もらない。
瀬戸内海からの風を受けるせいか、積もってもすぐに溶けてしまう。
まだ小学生だった頃、一度だけ積雪の為に休校になったことがある。
誰も雪に慣れていないのと、先生方が来れなかったせいだ。
10cmも積もった!!
大騒ぎの一日だった。

私達母娘は突然の積雪に歓喜の声を上げ
野うさぎのようにピョンピョンと足跡を付けて回った。

木々の枝に積もる雪は、何となく危う気で、美しい。
世界がモノトーンに染まり、心が懐かしさに回帰する。

幼かった頃に降った雪は、ほんのわずかな間に溶けてしまった。
一生懸命作った雪だるまも
はしゃいで付けた足跡も
あっという間に消えてしまった。

ほんの小さな足跡が、父のそれより大きくなり
じわじわと消えて行く。

せめて降り注ぐ雪に、埋めて欲しいと願った
そうすればもう一度付け直せると
今度はもっと綺麗につけようと

それなのに
じわじわ、じわじわ
色を変え、形を変え、最後には解らなくなってしまう。

これが人生か・・・
私は何時間もの間、自分の足跡が消滅するのを見届けていた。

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