今から七年前、私は母と二人で旅行をした。
結婚前の母娘旅行だ。
岐阜の高山へ行き、温泉に浸かり、美味しいものをたらふく食べる
女二人、始めての旅行は、とても贅沢なものだった。
季節は秋。
きっと紅葉が綺麗ね・・・
母の一言で温泉行きが決まったのだ。
しかしハッキリ言って、寒かった。
しかも紅葉どころか
今にも雪が降るんじゃないか、と言う程の激寒日和だった。
私達は何日分かの衣装を重ねて着込み
震えながら部屋に閉じ篭っていた。
「良いお天気続きで、良かったですね〜、今年は例年になく寒いですけど・・・」
と、仲居さん。
着物の裾がヒラリと開き、そこに見えるは、羊のももひき。
明日はロープウェイに乗りましょう。
母の為の旅行だったので、私は渋々だが了承した。
夜には三合程のお酒を空け、気分も良好床に付いた。
翌朝、目覚めてみると一面白銀の世界が視界に広がり
私達は歓声をあげた。
◆
私の生まれ育った街に、雪は積もらない。
瀬戸内海からの風を受けるせいか、積もってもすぐに溶けてしまう。
まだ小学生だった頃、一度だけ積雪の為に休校になったことがある。
誰も雪に慣れていないのと、先生方が来れなかったせいだ。
10cmも積もった!!
大騒ぎの一日だった。
◆
私達母娘は突然の積雪に歓喜の声を上げ
野うさぎのようにピョンピョンと足跡を付けて回った。
木々の枝に積もる雪は、何となく危う気で、美しい。
世界がモノトーンに染まり、心が懐かしさに回帰する。
◆
幼かった頃に降った雪は、ほんのわずかな間に溶けてしまった。
一生懸命作った雪だるまも
はしゃいで付けた足跡も
あっという間に消えてしまった。
ほんの小さな足跡が、父のそれより大きくなり
じわじわと消えて行く。
せめて降り注ぐ雪に、埋めて欲しいと願った
そうすればもう一度付け直せると
今度はもっと綺麗につけようと
それなのに
じわじわ、じわじわ
色を変え、形を変え、最後には解らなくなってしまう。
これが人生か・・・
私は何時間もの間、自分の足跡が消滅するのを見届けていた。