夢追い人の爺様


えらい洒落てんな〜〜
舞妓さんかいなぁ

行きつけのバーに番傘をさして行くと
爺様は笑いながら話し掛けた。
それが、彼と私の出会いだった。

バリバリの京都弁だけれど
生っ粋の京都人ではないと言っていた。

他所者ばかりが集まるそのバーで
大きなカウンターのあるそのバーで
いつも樽の前に陣取り
1人小さな瓶のスコッチを飲んでいる。
それが爺様だった。

あ〜、気持ええなぁ〜〜

一口飲んでは、その言葉を繰り返す。

あ〜、気持ちええなぁ〜〜
なぁ〜、わしらは幸せやなぁ〜

ストレスがたまり過ぎると
私はいつもそこへ立ち寄る。

フラッと行くと、マスターがにこりと笑い
いつもの飲み物が出て来る。

テキーラに生のオレンジを絞ったもの。
その時々で、味が違う。
夏は甘く、冬は酸っぱい。

洒落てんなぁ〜

爺様は、「本日の味」に
いつも興味をしめしていた。

何でテキーラやねん?

ずっと答えられないままだった。
もっともらしい理由を考えていた。

何でテキーラやねん?
何でオレンジやねん?

適確な理由が見つけられず
その日、私はテキーラをストレートで注文した。
いつもの方が美味しかった。
だから始めて答えた。

美味しいから。

爺様は、とても満足そうだった。

そ〜か
え〜なぁ〜
美味しい思て飲む酒は
え〜なぁ〜〜



『夢追い人』を載せた所、未だかつてない程、色々な方からメールを頂きました。
何となく爺様に会いたくなり、久々にバーを訪れた所、当時85歳の爺様は、他界されたと聞きました。
享年88歳。

「わしはまだまだ諦めへんでぇ〜」

爺様の声が、バーの奥から聞こえたような気がしました。

私だけではなく、彼を悼む方達は、本当に多くの事を学ばせて頂いたのだと思います。

彼の言葉はいつも、ほろ酔い気分の私達にずっしりと深く入り込んで来ました。

戦争を体験し、諸外国を転々とし、高度経済成長期の立て役者として多くの会社を切り盛りしていたという爺様は、それこそ仙人ような方でした。

もっともっと多くの事を語り合えれば、まだまだ多くの事を教えて頂けたのに。

あんなにへべれけになるまで飲んでいなければ、言葉の1つ1つをもっと明確に憶えていただろうに・・・

言い出すときりがないので、憶えている事だけを、連載して行こうと思います。

名も知らぬ爺様のご冥福をお祈りすると共に、彼の言葉が多くの方達の、生きる糧になることを願って・・・


2003.12.9

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