私は、この街がどうしても好きになれない。
大抵の人に、望郷の思いがあるように、つまるところ、私にとっても単なるそれかもしれない。
ならどうして、私がこの街に残ったか・・・
それは、どうしても離れたくない人が居たからに過ぎない。
海が好きで、街が好きで、神戸という街に異様な思い入れのあった私が、その街に帰らず、この街に残った。
それは単に、どうしても離れたくない人が居たからに過ぎなかった。
多くのものを傷つけても、全てのものを失っても、それでも一緒に居たかった人。
望まなければ何も手に入らない。
しかし、多くのものを求めると、1つのものをも手に入れられないのと同じくらい、たった1つのものだけを求めると、多くのものを失う事になる。
あの時私が求めたのは、たった1人の人だった。
あの時私が欲しかったのは、たった1つのことだった。
たった1人の人との、たった1つの願いを失って、私が手にしたものは、崩壊し続けるこの魂だった。
今でも思ってる。
今でも想ってる。
だから、失ってこそ手に入るものがあるのだ、と思える日まで、私はこの街に居座っている。