My Fairy Lady final

その日の夜、レディは私を寝かせてはくれなかった。手術よりもっと辛いものが、私達に待ち受けていたのだ。

あの病院で見た、末期癌の犬の呻き。
全身を震わせながら、朦朧とした眼でこちらを睨み付け、泣叫ぶ。でもそれは犬らしい鳴き声ではなく、明らかに悲鳴である。
麻酔ではなく、鎮静剤の切れかけに起こる現象らしいが、見ているこちら側の身体の血が、全て青く変色していきそうな、おぞましい姿である。

それが当然のように、彼女にも訪れたのだ。
たまに母が見に来てくれたが、ただただ発狂するレディをなだめるしか打つ手はなく、夜中中私は頼り無くレディを呼び続けていた。

何日も寝ていないような気がしていた。身も心も疲れ果て、懐も寒くなり、本当にグッタリ、という感じであった。

翌朝、私はレディのゲージに覆い被さるような格好で、眼を覚ました。レディはようやく眠っていたが、グッタリを理由に、私も眠ってしまったようだった。
レディが眼を覚ます前に、ドライフードではなく、缶詰めを買いに車を走らせた。眼の奥が熱く、頭が重たかった。

しかし飼い主の事等お構い無し、というように、私が帰った頃にはレディは既に眼を覚ましており、おばあちゃんに抱っこされ、目をショボショボと瞬いていた。
ただいつもならそんな彼女に、彼女の息子が、ベタベタとくっついていき、嫌がられ、追いやられ、落ち込んで、家出する・・・という光景を見るのだが、この日ばかりは全く様子が違っていた。
自分の母の異変を感じたのだろうか、それとも、レディにロンを追いやる元気がないだけだろうか、大人しくピタリと寄り添い座っているのだ。

食事を済ませたレディを再び車に乗せ、いざ病院へ・・・

昨日の事等すっかり忘れたかの様に、尻尾を振り回しながら病院へ突進していくレディ。
「おっはよぉ〜♪」とそこら中の人達に愛想を振りまき、鈍いながらも一応『レディダンス』を披露。
椅子にぴょんっと飛び乗り、お隣さんにもご挨拶。
ただただ呆然と、彼女の行動を眺めている、頼り無〜い飼い主。

「レディちゃ〜ん」
診察室からお声がかかり、現実に引き戻されるのかと思いきや、何の事はない、いまにも手をあげて返事をしそうな勢いで、先生の元に駆け寄って行ったのであるからあっぱれである。
「ほぉ〜、元気やね〜」
感心する先生方に、私は不安になって聞いた。
「良いんでしょうか・・・こんなに飛び跳ねて・・・」
「さぁ〜、いいでしょ・・・たぶん」

その日を境に、レディは元のレディに戻り、傷口が癒えると共に我侭になり、女王様気取りで今日も元気にイビキをかいている。

おしまい。

All Rights Reserved(c)2002 by Nao.R-midnight.jp
SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送