Phot:by Nao

Passion

ブーゲンビリアを見る度に思い出す言葉がある。
「私は今死んでも、何も思い残す事ないの」

ジャマイカからの帰り、マイアミ空港のエアーラインで
私達はその女性と知り合った。
目の淵をグルリと一周する、黒のアイライン。
つい先程まで、私達を包んでいた、ブーゲンビリア色の口紅。
いかにもアメリカに住む、日本人らしい、50半ばの女性。
私達を見て、若かりし日の自分を思い出したのだ、と彼女は言った。

スーツケースは2つ。
小さい方を夫が持ち、大きい方を私が持っていた。

彼女は確かめるように、各々のスーツケースを持ち上げた。
小さい方は、かなり重く。
大きい方は、難無く持ち上がる。
「舌きりスズメ」のようだ、と彼女は笑った。

大きい方は、ウエディングドレスとタキシードしか入っていないから・・・
私の説明に、彼女は黒淵の目をパチクリさせた。

ジャマイカのガゼボの上、海から吹き付ける風に、永遠の愛を誓ったのね。
体中がこそばくなるような言葉も、彼女が言うと心を打つ。

ねぇ、憶えていて。若い2人に私からの結婚祝よ。
人生は長いようで短い。
でも、幾つになっても未来はあるものよ。
いつ死んでも後悔しないくらい、何でもやってみて。
今を必死に生きてたら、過ぎた事を後悔している暇なんてないの。
いい? 憶えていて。
いつ死んでも後悔しないと言い切った、こんなおばさんと出逢った事を。

ブーゲンビリアの咲き乱れる頃になると、私は何度も思い出す。
彼女のポッケに忍ばせた、1枚の写真。
彼女の唇と同じ色の、ブーゲンビリア。
情熱、という花言葉は、彼女にピッタリだった。

I will never forget your passion,forever!
写真の裏にしたためた言葉。
彼女はそれに気付いただろうか・・・

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